技術革新が生んだ「AMG」というブランド

1971年、スパ・フランコルシャン24時間レース。AMGが手掛けた「300 SEL 6.8」、通称〝レッド・ピッグ(赤豚)〟は、巨大なボディに6.8ℓV8を積むという常識破りのパッケージで、総合2位、クラス優勝という快挙を成し遂げました。この一戦によって、AMGは単なるメルセデス・ベンツのチューナーではなく、卓越した技術力を持つブランドとして世界にその名を刻むことになります。

その後、1976年には現在も本拠を構えるアファルターバッハへ移転。増え続ける顧客の期待に応えるべく開発体制を整えながら、着実に事業規模を拡大していきました。しかし、本当の意味でAMGが大きく飛躍したのは、1980年代に入ってからのことでした。

◼️技術革新と〝ザ・ハンマー〟の衝撃

1984年、共同創業者のひとりであり、天才エンジニアとして知られるエアハルト・メルヒャーは、AMGの新たな歴史を切り開く技術を完成させます。それが、独自設計によるDOHC・4バルブシリンダーヘッドでした。

当時のメルセデス・ベンツ製V8エンジンはSOHC・2バルブが基本でしたが、メルヒャーはシリンダーヘッドを一から設計し直し、1気筒あたり4バルブ化を実現。吸排気効率を飛躍的に高め、高回転域まで力強く吹け上がる特性を手に入れました。しかも、この技術はメルセデス・ベンツ自身が量産4バルブV8を世に送り出すよりも先に実現したものです。その先進性は、当時としても際立っていました。

それまでの、既存のエンジンをベースとした高度なチューニングにとどまらず、独自のシリンダーヘッドまで設計・開発する技術集団へ。AMGというブランドの性格そのものが、この年を境に大きく変わったのです。そして、その技術力を世に知らしめた象徴的なモデルが、1986年に登場した「300E AMG」、通称〝ザ・ハンマー〟でした。

 

124型ミディアムクラス(現Eクラスの前身)をベースに、M117型V8へAMG製DOHC・4バルブヘッドを組み合わせた5.6ℓユニットを搭載。後には排気量を6.0ℓへ拡大した仕様も加わります。5.6ℓ仕様は360PSと510Nm、6.0ℓ仕様では385PSと566Nmを発生し、その実力は当時のイタリアン・エキゾチックと真っ向から渡り合える水準にありました。

なかでも語り継がれるのが、300CE 5.6 AMGクーペが標榜した最高速度303km/hです。大台を突破したその性能は世界中の自動車関係者に衝撃を与え、そこから付けられたと言われる〝ザ・ハンマー〟という愛称は、とりわけアメリカ市場で伝説的な響きを持つようになりました。

もっとも、このクルマの価値は圧倒的なエンジン性能だけではありません。専用サスペンションや強化ブレーキ、エアロパーツ、インテリアに至るまで一貫した思想で仕立てられ、一台の完成車としてトータルに作り込まれていた点こそが重要でした。

1970年代「速いメルセデスを作るチューナー」として世界にその名を知られるようになったAMG。そして1980年代は、自ら技術を生み出し、エンジンを設計し、一台のクルマを総合的に作り上げることで、チューナーから真の高性能車メーカーへと歩み始めた10年間だったのです。

◼️リンゴの木とエンジンが語る、AMGのルーツ

ブランドの個性を象徴するエンブレム。日本でいえば家紋にも似た存在であり、そこに込められた意味をひもとくと、ブランドの出自やものづくりへの思いが見えてくるのが面白いところです。メルセデスAMGの車両に掲げられる円形のエンブレムは、メルセデス・ベンツのスリーポインテッドスターとはまったく異なる意匠です。考案したのは、AMGの共同創業者ハンス・ヴェルナー・アウフレヒト。じっくり眺めると、AMGの歴史を物語るさまざまなモチーフが描かれています。

円の上部に記された「AFFALTERBACH」は、AMGが1976年から本拠を構える町の名前。「Affalter」は古いドイツ語で「リンゴの木」、「Bach」は「小川」を意味するとされ、それぞれを表すリンゴの木と小川が左側に描かれています。では、右側にあるのは何でしょう。よく見ると、バルブとバルブスプリング、そしてカムであることがわかります。これらは、AMGの核ともいえるエンジン開発の象徴です。〝レッド・ピッグ〟の6.8ℓ V8や、〝ザ・ハンマー〟のDOHC・4バルブV8など、AMGは創業以来、エンジン技術を磨き、それをブランドの大きな柱としてきました。

円の左右を囲む月桂樹の葉は、古くから勝利と栄誉の象徴。つまり、この小さなエンブレムには、アファルターバッハという故郷、エンジン技術、そしてモータースポーツで重ねてきた勝利の歴史が凝縮されているのです。ちなみにAMGでは、従業員に年間約36トンものリンゴを提供しているのだとか。「1日1個のリンゴで医者いらず」を意味する英語のことわざ、“An apple a day keeps the doctor away.”の考え方を取り入れたものだそうです。エンブレムに描かれたリンゴを、従業員の健康づくりにも結び付ける。そんな遊び心もまた、AMGらしいエピソードといえるでしょう。

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