前回(技術革新が生んだ「AMG」というブランド)で紹介したとおり、1980年代のAMGは、すでに単なるチューナーという枠には収まらない存在になっていました。その象徴が、124シリーズをベースに1986年に登場した「300 E AMG」、通称〝ザ・ハンマー〟です。大排気量V8を押し込むだけでなく、足まわりや空力、内外装にまで手を入れ、一台のクルマとして仕立てる。その完成度によって、AMGはコンプリートカーメーカーとしての存在感を確かなものにしていきました。
公式ブランド化と共同開発の始まり
そんなAMGにとって、1990年代はもうひとつ大きな転機となります。1990年、当時のダイムラー・ベンツAGと協力契約を締結。これによってAMGの商品は、世界各地のメルセデス・ベンツの販売・サービスネットワークを通じて購入、整備できるようになりました。
いまではメルセデス・ベンツのショールームでAMGモデルを選ぶことに何の違和感もありませんが、当時を考えればこれは大きな変化です。腕利きのスペシャリストが手がける特別なクルマだったAMGが、メルセデスの正規ネットワークの中で選べる存在へと変わり始めたからです。
レースでの勢いはさらに増していました。舞台は当時大きな人気を集めていたドイツ・ツーリングカー選手権(DTM)。1991年のDTMには4チーム12台の190 E 2.5-16エボリューションIIが投入され、AMGはチームタイトルを獲得。続く1992年にはクラウス・ルドヴィックがドライバーズタイトルに輝きます。市販車だけでなく、やはりAMGはサーキットでも速かった。そんなイメージが、この時代にさらに強くなっていきました。
そして1993年、メルセデスとの協力関係から生まれた最初の共同開発モデル「C 36 AMG」が登場します。ベースは同年デビューの初代Cクラス。直列6気筒エンジンは3.6ℓへ拡大され、280PS、385Nmを発生。ブレーキにはSL 600(R129)やE 420(W124)の部品を流用するなど、エンジンだけを速くするのではなく、クルマ全体のバランスを整えていたところもAMGらしいところでした。
しかも、ガチガチのスポーツセダンに仕立てたわけではありません。普段はメルセデスらしく快適でありながら、踏めばしっかり速い。このあたりは、現在のAMGにもそのまま通じる部分でした。C 36 AMGは1997年までに5000台以上が生産され、販売面でもAMGにとって大きな成功作となりました。また1993年には「AMG」の名称そのものもドイツの特許当局から商標として認められています。
その後はラインアップも一気に広がります。1995年には210シリーズEクラスをベースとした「E 50 AMG」、1997年にはCクラス初のV8となる「C 43 AMG」が登場。そしてEクラスも5.5ℓV8の「E 55 AMG」へ。のちにAMGを代表する数字となる〝55〟が、この頃から存在感を強めていきました。
コンペティションでは1997年からCLK-GTRがFIA GT選手権に参戦。翌1998年にはCLK-LMも投入され、AMGメルセデスはシーズン10戦すべてで勝利しています。
そして1999年、ダイムラー・クライスラーがAMG株式の51%を取得。独立したチューナーとして始まった会社は、ついにメルセデスを擁する企業グループの一員となります。
こうして1990年代を振り返ってみると、メルセデスとの距離が一気に縮まっただけでなく、市販車でもレースでもAMGという名前が強く意識されるようになった時代だったことがわかります。〝ザ・ハンマー〟で見せたAMG流のクルマ作りは、C 36やE 55へと受け継がれ、現在のMercedes-AMGにつながる姿が見え始めていたのです。
新型直列6気筒を得たAMG「GLC 53」登場
スポーティなイメージの強いMercedes-AMGですが、そのベースがSUVだからといってパフォーマンスに妥協しないのも、このブランドらしいところです。振り返れば〝63〟の名を印象づけた6208ccのM156型V8を最初に搭載した量産モデルは「ML 63 AMG」でしたし、W463型Gクラスには6.0ℓV12ツインターボを詰め込んだ「G 65 AMG」まで存在しました。
そんなAMGのSUV史に、新たな一台が加わりました。つい先ごろ日本導入が発表された「Mercedes-AMG GLC 53 4MATIC+(ISG)」です。搭載されるのは、進化した3.0ℓ直列6気筒。排気ターボに加え、最大7.5kWで作動する電動コンプレッサーと48VのISGを組み合わせ、新しいシリンダーヘッドや吸気カムシャフト、大容量化した吸気系、新型インタークーラーなども採用しています。最高出力449PS、最大トルク600Nm。オーバーブースト時には10秒間、640Nmまで引き上げられます。
同系の直6は最新のGLE 53にも搭載されています。それをひと回りコンパクトなボディのGLCに載せたとなれば、やはりそのパフォーマンスは気になるところ。実際、AMGローンチコントロール使用時の0-100km/h加速は4.2秒と、SUVながら本格的なスポーツカーにも匹敵するもの。数字だけでも十分に速いのですが、高回転まで伸びるよう仕立てられた直6が、GLCのボディとどう組み合わされているのかも興味深いところです。
完全可変式四輪駆動のAMG Performance 4MATIC+に、アファルターバッハで開発されたAMG RIDE CONTROLサスペンション、さらにリア・アクスルステアリングを標準装備。AMG DYNAMIC PLUSパッケージを選べば、電子制御式リア・アクスル・ディファレンシャルとドライブプログラムに「RACE」が加わり、ドリフトモードでは後輪駆動へ切り替えることもできます。これはMercedes-AMGのSUVでは初の試みです。
ボディは通常のGLCと同じくSUVとクーペの2タイプ。さらに導入記念車として、オブシディアンブラックやMANUFAKTURグラファイトグレーマグノをまとい、21インチ鍛造AMGホイールなどを備えた「Edition Dark Performance」も全国限定150台で用意されました。
直列6気筒を積んだ新しい53は、スペックだけを追ってもなかなか興味深い存在です。ただ、Mercedes-AMGらしさは数字だけでは分からないもの。どんな佇まいで、どんな音を聞かせるのか。AMG東京世田谷で、ぜひ実車を確かめてみてください。
※展示車やデモカーの配車時期につきましては、決定次第、シュテルン世田谷公式ホームページにて順次ご案内いたします。